RA(修了生)

吉岐 航

主専攻
修士(工学)
修士(商学)
博士(工学)
副専攻
商学研究科 修士(商学)
研究テーマ

光エレクトロニクス、光マイクロデバイス

趣味
映画鑑賞、テニス

5年間を振り返る

本稿ではリーディングプログラムで過ごした5年間を振り返る.まず,本プログラムへ応募した経緯を整理した後,本プログラムに採用された当時を思い返す.その後,副専攻修士課程(3年目)と主専攻博士課程(4-5年目)における学びについて説明し,最後に本稿のまとめを行う.

私の主専攻は理工学部電子工学科であり,より具体的には「微小光共振器」と呼ばれる光マイクロデバイスについて基礎研究を行っている.微小光共振器には内部に閉じ込めた光の強度を劇的に高める効果があるため,通常の光デバイス中では観測されない様々な現象が発現する.それらの現象は物理的に興味深いだけでなく,小型レーザ光源や光通信用素子への応用も期待されている.このような魅力的かつ将来性の高いテーマに出会ったこともあり,学部4年次には博士課程への進学を選択肢として考え始めていた.その一方,博士課程には専門一辺倒で一般社会から隔絶されているというネガティブなイメージもあり,それが博士課程の志望を躊躇させていた.そんな時に指導教員が紹介してくださったのがリーディングプログラムである.リーディングプログラムは,産業界からメンターを招聘したり学生に異分野の修士号取得や海外留学のチャンスを用意したりなど,広く開かれているプログラムであると感じた.これは私のステレオタイプな博士課程へのイメージを払拭するものであったので,私はリーディングプログラムへと応募することにした.

リーディングプログラムへ入って驚いたのは,カリキュラムの内容が広範囲にわたっていたことである.広い教養を身に着けるための座学に加え,グループワーク主体の起業講座,自らテーマ設定することが求められるグループプロジェクト演習,サンフランシスコでの短期インターシップ,そして研究の進捗を他分野の学生に分かりやすく説明することが求められるプログレスミーティング等の多様なカリキュラムが用意されていた.これらは理工学部の電子工学科という狭い専門の中で過ごしてきた私にとってはある種のカルチャーギャップであったと当時に,これまでの視野の狭さ自省するきっかけとなった.また,本プログラムは様々な分野から学生を採用しているため,一人ひとりの学生が多様なバックグランドを持っていた.彼らとの関わり合いの中で,前提となる知識や価値観の異なる人々とのコミュニケーションの方法を学ぶことができたと思う.

リーディングプログラムの3年目には,副専攻である商学研究科修士課程にて1年間研究を行った.この1年間は,自身の専門分野から離れ完全な異分野である人文系の研究に取り組んだという意味において,異色かつ鮮明に記憶に残っている期間である.副専攻での研究を経て特に感じたことが,訓練としての人文系研究の有用性である.副専攻入学前は,定性的にしか議論できない場合も多い人文系研究の意義についてあまり理解をしていなかった.また,副専攻に入学した後も,同じ対象を分析しているはずの先行研究が正反対の結論出しているようなケースが散見され閉口したこともあった.しかしながら,終盤になって気が付いたのは,理工系の論文のような「確実な結論」を得ることができるケースの方が実社会においては稀だということである.例えば「原子力発電の是非」のような極めて重要な問題においても,相反する様々な考え方が存在し,確実に正しいといえる結論を出すことは難しい.このような問題の解決策を考えるプロセスは人文系の研究の進め方によく似ている.人文系の研究では,異なる主張をする様々な文献を精査し引用しながら自身の主張を形作る.この点を踏まえると,副専攻における研究は,実社会の「不確実な」問題に対処していく能力を醸成する一助になったのではないかと思う.また,副専攻での研究活動を経て,人文系のような完全な異分野であっても能力を発揮できるという「オールラウンド型」としての自信を持った.

4-5年目は主専攻の博士課程に戻り,自身の専門分野をより深めた.この時期には,投稿した研究論文がアクセプトされたり修士課程在籍時に出版した論文が多くの研究者から引用されたりなど評価が目に見えるようになったことから専門性についてさらに自信を深めることができた.また,この期間にはリーディングプログラムから支援いただき,ドイツ・フライブルク大学において半年間の海外短期留学も行った.日本人が一人もいない環境での研究活動には苦労もあったが,国際的な環境の中でも研究を遂行できるという自信を得た.なお,現地の学生と日本の学生との比較の中で感じたことは基礎知識の量の違いである.専門分野については大差なかったが,電子回路やプログラミングといった基礎的な知識・スキルにおいては日本の学生は一歩劣るという印象を受けた.社会へ出れば自分の専門とは異なる様々な課題に出会うはずだが,そういった時に必要とされるのは前者でなくむしろ後者の方である.これは私自身が反省すべき点でもあるし,日本の高等教育に対して危機感を覚える点でもある.

リーディング大学院プログラムで過ごした5年間が本当に有用であったかどうかを判断することは難しい.というのも,現実には存在しない「リーディングプログラムで過ごさなかった5年間」との比較なしに,それを論じることはできないためである.しかしながら,私はリーディングプログラムに入ったことを後悔したことは一度もないし,この5年間には本当に満足している.この5年間に通常の博士課程では得られなかったであろう様々な経験をすることができた.この場を借りて,リーディングプログラムに携わっていただいた先生方,事務局の方々,そしてRAの皆さまに感謝したい.

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