RA(修了生)

加藤 拓巳

主専攻
修士(工学)
修士(医科学)
博士(工学)
副専攻
医学研究科 修士(医学)
研究テーマ

5年間を振り返る

リーディング大学院プログラムを知ったきっかけは,指導教員である田邉孝純准教授から渡されたパンフレットであった.博士に進学することを迷っていたこともあったが,リーディング大学院プログラムを志望した大きな理由は,その理念にある「新しい社会の仕組みを創る」に感じるものがあったからである.起業を推進すること,新奇的な研究で技術革新を起こすこと,それ自体は求められて然るべきであるが,これらにはビジネスコンペティションをおこなうこと,競争的資金を投入すること,といった明確な解決策が存在する.しかし,将来の社会の仕組みを考えること,それには従来とは別の趣向が必要であり,そこに挑戦するプログラムの理念に乗っかってみたいと素直に感じたのがきっかけであった.

主専攻修士は,とにかく迫りくる壁を超えることに必死な時期だったと思う.私は電子工学を専攻しているが,スーパードクター云々以前に,博士まで継続して関わっていく研究分野の理解を深めることがまず求められており,社会問題への理解や国際性を高める訓練も相まって,日々の課題に忙殺されていた印象がある.特に最初の1年に大きな負担を感じていた.振り返ると,それは自身の力量不足でもあり,物事を遂行する上での優先順位の選択が不十分だったのだとも思う.この5年間に一貫して求められてきたことの一つに適応力がある.人は一つの環境に馴染むと,そこが心地よくなり,更なる外部の環境へ出ていく動機が薄れるものである.新しく外部の環境に入れば,必ずその環境に馴染むための努力が必要となる.「郷に入りては郷に従え」である.適応力が弱ければ,そこの関門を突破できず,尻尾を巻いて帰る他ない.私はこの「適応力」の一端は,優先順位のつけ方にあると考えている.自身が置かれた状況において,過去の経験に囚われずに,何を一番優先すべきなのか,何を一番抑えなければならないのか.それを判断し,実行することが,様々な状況に適応するために必要な要素であると思う.求められていることを全て高いレベルで実行することは理想であるが,オーバーワークは正直すぎる.おそらく,私はこの時期にかなり明確にその事を意識した.

副専攻修士では医学研究科を選択し,一般人には近いようで遠い分野の一端を体験した.私のこの選択は,医学をかじるのは今しかできないのでは,という考えに起因する.この選択は間違っていなかったと思う.分子生物学などの最先端の研究内容から,人体機能や病態などの基本的な知識や医療倫理の議論まで幅広い話題を学ぶことができて非常に有意義だった.私は眼科学教室の一員として,網膜の黄斑部分にあるカロテノイド成分を測定する研究に従事した.加齢黄斑変性症という大きな社会課題に立ち向かう使命によってもたらされたこの研究は,ニーズとシーズの関係を改めて認識させてくれた.測定する手段であるレーザ顕微鏡を扱うにはレーザの専門知識が必要であり,私はそちらを持っていた.眼の構造を理解するには,眼科医の知識が必要であり,日々の議論によって私にそれを与えてくれた.分野を横断しながら,社会課題に向かっていく研究はとても刺激的であり,新しい環境に適応していくことも含めて,得難い経験であったと思う.

主専攻博士に戻ってきてからは,研究の着地点を見据えつつ日々を過ごしてきた.2年の間には,留学や就職活動が含まれており,想像以上に慌ただしい期間だったと思う.何かを訓練していくというよりは,それまでに培われた能力を用いて結果を出すことが求められていると感じた.今の自分は,果たしてそんなに成長したのか,ただ時間を無駄にしてきただけなのか,自分を信じられずに,その暗い前途に悲観したこともあった.そこを支えてくれたのはプログラムの同期であり,一人では押し潰されそうな不安にも耐えて,最後まで来れたのは彼らの存在がとても大きい..

リーディング大学院プログラムの特徴でもあるメンターの方々には,その高い見識に基づいた的格な助言を,毎週の議論の中で,泊りがけの合宿の中で,何度も頂いてきた.我々が専門分野外にも関わらず,日本のエネルギー事情や先端のAI事情,オープンソースコミュニティ事情の知識を備えているのもその結果の一つであろう.私は,川崎市から来られていた鈴木毅氏や,東京海上日動HRAから来られていた高橋竜三氏など複数の方に担当して頂いたが,それは多角的な視座を得るのに非常に役立ったと感じる.GPEのテーマは,主副専攻を技術(サイエンス)寄りにしたことから,人間(アート)を対象にしたかったので,「医療分野へのコーチングの応用」に取り組んだ.コーチングは,人の意識に働きかけて,行動の変容を促す技術である.やろうと思っても実行できない,そんな状況に置かれている人を後押しする働きかけがあれば,その人は実行できるのではないか.これを医療に応用すれば生活習慣病を発症する前段階での予防が可能なのではないか.この取り組みは,人がどのような感情を持っているか,外部からの刺激にどのように反応するか,を考える良い機会になったと考えている.

私の5年間は,これから進んでいく道に対して,十分な準備となったのだろうか.偶然にも,「新しい社会の仕組みを創る」のど真ん中に携わっていくこととなったが,この5年間に得られたサイエンスの視点とアートの視点を活かして,「適応」していければと思う.最後に,主専攻では田邉孝純准教授,副専攻では坪田一男教授の多大なご支援を頂いた.5年間の区切りを迎えることができたのは,プログラムに関わる全ての人の支えがあったからであり,皆様の期待に沿えるよう,今後とも気を引き締めていきたい.

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