RA(修了生)

兪 浩洋

主専攻
修士(工学)
修士(医科学)
博士(工学)
副専攻
医学研究科 修士(医科学)
研究テーマ

歯科インプラント手術治療
支援ロボットドリルシステムの開発

趣味
カメラ,水槽

5年間を振り返る

本プログラムに参加する前までは、修士でどこか受け身な研究を続け,適当な企業に就活するという自分のスタイルに違和感を感じていました。この違和感を打開しようと参加したリーディング大学院で過ごした五年間は非常に密度のあるものでした。毎週土曜日に行われる企業や産業界で活躍してきたメンターとの討論や行政機関の職員によるオムニバス形式の講演を通して、自分の中での俯瞰力を養い、幅広い問題意識を持つことが出来ました。特に私のメンターであるソニーの上田さんには、自分から行動をする主体性の重要さを教えて頂きました。また,主専攻理工学研究科で培ったロボット制御の知識と副専攻医学研究科で体験した口腔外科の現場における問題点を融合させることで,ロボットマニピュレータを用いた歯科インプラント手術支援システムの研究を行ってきました。
リーディング大学院に入った当初,私は大西教授の指導の下,ロボット技術を用いた人間支援の研究を行っていました。ロボットは人間よりも高い精度で物体を計測し,人間よりも大きな力を発揮することができるため,これらの技術は産業の分野で応用され,数多くのロボットが開発されてきました。しかし,21世紀の超成熟社会においては「量」から「質」へのパラダイムシフトが起こり,大量生産よりも人間支援が求められるようになるとともに,現在のロボットに求められる役割も,単調な反復作業ではなく,環境に応じた作業へと変化しています。主専攻理工学研究科では人間の動作を伝えるためのハプティクス技術を基礎として,これを医療およびインプラント手術に応用をする研究を行いました。しかし,研究としては論文誌等にも掲載されましたが,実際の医療現場で使うには自由度等の課題が多く,実用化の可能性は低い物となっていました。
そのため,副専攻では医学研究科の歯科口腔外科教室で中川教授指導の下,医療現場の見学や同期の研修医との交流を通して,本当に求められていることを実現できる人間補助ロボットの製作を目標としました。手術中の主な問題点として,ドリル切削ではドリル先端が見えないため,医師は微妙な力加減を頼りに手術を行う必要があることが挙げられます。そのため,経験不足の医師による手術では事前に予定した軌道を外れたドリル切削を行う可能性があります。このような事故を未然に防止するために,ロボットマニピュレータを用いて,歯科ドリルの位置を力制御により医師に教示する多自由度の位置案内システムを提案しました。本システムは学会での評判もよく,国際会議では発表賞を受賞しました。このようなシステムを短時間で形にすることが出来たのは,主専攻理工学研究科での強固な技術力と副専攻医学研究科での幅広い経験無しには成し遂げられないものであり,医工連携という異分野融合の観点で非常に高い成果が得られたと感じています。
このような異分野融合の必要性を主専攻と副専攻で身をもって体験したことで,世の中の問題は日々複雑化する一方で,大学内の分野は、絶え間なく細分化、専門化しているという問題点も見えて来ました。グループプロジェクト演習ではLinuxのコミュニティに長年所属し,そこで様々な体験をしてきた上田さんとのディスカッションや問題共有をもとに,どのようにすれば,異分野融合を推進することにより,イノベーションの起こる確率を上げることができ,今後の社会の生産性の向上につなげることができるのかを議論することで,政策提言につなげています。
リーディング大学院のもう一つの特徴として,海外経験の多さが挙げられます。私にとって初めての長期の海外経験はBMW of San Franciscoへのインターンでした。初めてインターン先のガレージを訪れた時の心細さは今でも覚えています。しかし、勇気を出して話しかけた人が、私の発音も文法も適当な英語を一生懸命に聞き取り、会話が成立した時の安心感は格別なものでした。このインターンで一番身についたものは度胸だったと思います。最初はわからないことだらけですが、臆せずに質問やコミュニケーションを取ることで、信頼関係を築くことができます。その結果,最初はシンプルな仕事しかできませんでしたが、徐々に責任ある仕事も任せられるようになりました。このインターンでの出来事を思い出せば、どんな場所にも出て行ける。そんな風に思える貴重な体験でした。
また,イタリア・パドヴァ大学にてサンカミロ病院(ヴェネチア)と提携して,アームバンド型筋電センサーを用いた脳梗塞患者のための指先リハビリテーションシステムを開発し,コンパクト化と治療の簡易化に貢献することができました。本システムは病院での評価も高く,実際に現在も治療に使われています。また,共同開発に参加したイタリア人の修士の学生とは共に日本に帰国し,彼の修論の詰めの作業を手伝うなど,留学後も密な関係を持ち続けています。
このように,リーディング大学院で培った俯瞰力、問題意識、主体性を活かし、受け身な姿勢ではなく、今の世の中でどのようなことが問題とされ、どのようにすれば解決できるのかを自分の身を持って体験することができました。欧米では理工博士の取得が当たり前ですが、日本ではむしろ博士を取ることが一種のリスクだと考える人が多くいると思います。しかし、どんな大企業に入ってもずっと安定でいられる保証はありません。企業の調子が悪くなった時に自分からそれを変えられる力、ゼロから新しいことを始められる力をリーディング大学院で学べたと思います。

さらに詳しく知りたい方へ