大阪大学栄誉教授 大阪大学産業科学研究所教授 関谷毅氏
『広範な研究融合が生み出す新しい社会基盤』 ~シート脳センサ、構造物ヘルスケアセンサの社会実装を実例に~

2018年6月16日(土)、本プログラムの活動拠点日吉西別館にて、大阪大学栄誉教授、大阪大学産業科学研究所教授の関谷毅氏よりご講演を賜りました。

関谷氏は大阪大学基礎工学部物性物理工学科を卒業された後、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻で工学博士取得、その後東京大学工学部電気電子工学科で准教授、大阪大学産業科学研究所で教授、そして昨年2017年には弱冠40歳という若さで大阪大学栄誉教授を務められております。また、2014年には高い被引用数を持つ論文著者の証である”The World’s Most Influential Scientific Mind”(”世界で影響力を持つ科学者”)にトムソン・ロイター社から選出され、さらに2016年には日経ビジネスが選出する”次代を創る100人”にも選出されるなど、輝かしい数々の受賞歴をお持ちです。さらに現在ではPGV株式会社を立ち上げられ、脳波ビッグデータの社会還元、ブレインIoTという新たな技術発展を進められています。


本講演では『広範な研究融合が生み出す新しい社会基盤』というタイトルで、関谷氏の専門である超薄・超柔軟素材のエレクトロニクスを応用した脳波測定技術をはじめ、種々の研究領域が融合することで新たに創出される新技術や社会問題への解決策を大変熱くご講演頂きました。

テクノロジーの進化は、指数関数的に進歩していくと関谷氏は強調されています。しかしヒトは線形で物事を考える生き物であり、例えば1枚の紙切れを42回折ると月よりも分厚くなるそうですが我々には想像がつかないことです。

一方で、人間の脳は38億年という大変長い年月をかけて最適化され、極めて高効率なエネルギー活動を行っています。人間の脳効率と同等のiPhoneが開発されれば70年に1度の充電で済むという面白い例示もありました。関谷氏は、1枚のAIチップで人間の脳を模倣することが究極的な目標であると仰っており、そのためには未だ不明な点の多い人間の脳のアルゴリズムを明らかにする必要があります。
その第一歩として、また、本プログラムの根幹でもある日本がこれから迎える超成熟社会における社会問題解決策の一つとして、関谷氏は脳波に着目しました。

これまで脳波は、大規模な装置を脳に装着することで測定するのが一般的でした。しかし、これでは測定器を装着している時の脳波しか得られません。この課題を克服すべく関谷氏らが開発したのが、超薄型で伸縮性に富んだおでこに貼り付けて脳波を測定する新パッチ式センサーです。被験者に装着している感覚を与えないこと、可能な限り密着性に富んでいること、筋電位のノイズをキャンセルして必要な波のみを増幅させること、といった様々な問題を技術力によりカバーし、見事に開発に成功しました。
このセンサーは、認知症の早期判断や早期治療、睡眠状態や精神状態の管理といった今後の日本が直面する大きな社会問題解決への足がかりにもなると考えられます。

講演を通じて最も印象に残ったのは、関谷氏の研究に対する当事者意識の強さでした。講演の中では、関谷氏の祖父母が転倒によりQOLを著しく低下させてしまった原体験から、モーメントポイントに着目した転ばない靴の開発や、認知症による社会保障費が莫大である問題を解決するためのセンサーなど、ご自身が研究に対して何より当事者意識を有しており、自分たちの技術を応用することでいかに解決できるかに重点が置かれているように感じました。またそのアイデアは日々アンテナを張り、種々の領域の方の話を聞いて回ることから生まれるものだと仰っています。

簡便な脳波測定によるビッグデータは今後無限の可能性を秘めています。お腹の中の赤ちゃんとお母さんが言葉を交わさずとも会話できる世界の実現、定量的な睡眠管理によるスポーツ選手のパフォーマンス向上、構造物の老朽化や破壊を予測するインフラ管理、オムツのつけ心地や照明が生体に与える影響を基にしたマーケティング戦略など、事例をあげれば枚挙に暇がありません。

超成熟社会における問題解決をテーマに掲げる我々RA一同にとって、関谷氏の熱いご講演は息つく暇もなく過ぎてしまうほどの迫力と面白さがありました。脳波測定によるビッグデータとAIの解析により、会話を超えたコミュニケーションが創出される世界はすぐ近くにあるかもしれません。

(Texted by: RA7期生 理工学研究科 修士1年 柴原健輔)

関谷 毅氏
大阪大学 栄誉教授 大阪大学産業科学研究所 教授
HP: http://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/aed/japanese/
PGV株式会社 HP: http://www.pgv.co.jp/