修了生座談会 第3章

3.就職活動とその後のキャリアパス

司会:神成何かつらかったかという質問をして非常によかったなと思います。これまで、こういう話は聞いたことはありませんでした。傍から見て大変そうだなと思うので、余り「大変か?」みたいなことは言わないようにしてきました。しかし今回、皆さんどの辺で苦労していたかを聞くことができて、大変よかったと思います。
そろそろ時間も大分進んできていいます。振り返りは置いておいて、やはり私としてここ一、二年で割と苦労しているというか、大変だなと思っているのは、皆さんを社会に出すという出口のところです。社会の産業界の受け皿が、このプログラムとマッチングしていないというところを、必要以上に痛感しています。他大学のプログラムは何だかんだ言っても、割と多くの学生さんは大学あるいは国研に残るというパスがあります。本プログラムのように、大学に残るのは基本的に無しよ、というようなところはありません。その意味では、他大学のプログラムは、産業界、特に研究職以外などに就職出口を探さねばならないという危機感は、我々ほどは無いと思います。我々のプログラムでは、ビジネス等を含む産業界や省庁に出すという出口目標を5年一貫して掲げてきました。これは産業界との関係では大きなチャレンジとなりますので、大変と言っているのですが、実は一番皆さんが大変な思いをしたわけです。理系の学生は昔からドクターでも研究者で採用されているので、大きな問題はないです。しかし、文系や、あるいは企業のビジネス分野において博士採用となると、ハードルは高い。学部卒で入社後5年目の人と、大学で修士・博士課程を修めた5年目の人を横に並べたときに、博士の方は、経験は足りないし、もう27歳ぐらいですよねと言われてしまう。
33歳ぐらいになったら、中間管理職というところに行くわけなので、そう考えると入って訓練して5年後には中間管理職として頑張ってもらわなくてはいけないということを考えると、やはり5年のギャップは大きいと言われる。皆さんの中でも、省庁は前歴を考慮してくれるだろうし、技術系で進む学生さんは従来型の技術系という形のマッチングで入ってくれるのでそれほど特異点にはならないとは思います。一方、企業のビジネス領域に進む段君、安藤君、長尾君の場合は、5年のギャップという物差しで見られることもあろうかと思います。
就活の過程を介して、あるいは来年春から遭遇するであろう5年のギャップみたいな、産業界の受け入れのハードルの高さとか、就活をやってみたギャップというか、どんな風に感じましたか。

学生A私自身はもう全然ギャップとかハードルの高さは、全く感じていなかったです。裏のほうで何があったかはわかりませんが。私は、既に来春入社予定の同期に1回会いましたが、特に違和感はありません。
司会:神成同期は、どういう人たちなのか。

学生A私を入れて6名おります。内、女性が2名です。かなりダイバーシティを意識して採用している気がします。そのうち、私1人がドクターで、2人が修士、残り3人が学士というような構成になっています。
司会:神成入ったらどういう教育を受けるかというのはもう大体聞いていますか。

学生A概略はわかります。基本的には新卒で採られているので、一般的な新人研修があります。基本的には先輩がつきます。メインはOJTです。それで進めながら仕事を学んでいき、大体5年間で一人前と言われています。一人前というのは、先輩として後輩を指導する立場に行くということです。
司会:神成では、通常の新卒のOJTに乗るわけだ。

学生Aそうですね。だから、そこには全く差別はないです。
司会:神成その中で、博士としてのスキルやリーディングで身に付けた俯瞰力を発揮していく戦略は何か考えていますか。

学生A恐らく、どこかのタイミングでプロジェクトにアサインされる。その時点では同期としては同列ですけれども、プロジェクトの中でどれだけ自分の価値というのを見せていくかというのが一番重要と考えます。もちろんそれはプロジェクトにもよると思うのですけれども、今までの経験をうまく使っていくぞとしか言いようがない。正直、何をやっているかもわからないので、どういった部署というかプロジェクトにアサインされるかも全くわからない。ただ、これまでに勉強の仕方、物事の調べ方、失敗の本質とか、そういうところはいろいろ見てきて体で学んできているつもりではあるので、そういったところは経験として強いのかなというように私は感じています。正直、同期と話したときに感じたのは、知識とかそういうもの云々は抜きにして、やはり若いなということでした。年齢的なものではなく、考え方とか熱さとか、それはすごく重要と思います。なお、飲み会での飲み方に関しては、私が一番若かったと思う感じですかね。
司会:神成さて、B君は1社落ちているわけです。何が足りなかったと考えてますか。

学生B数学力です。その会社としては、博士はアクチュアリーという専門コースしか選択肢はありませんでした。そのコースはその専門に進む上で、数学力を要求します。私はその専門は希望していませんでしたが、受かれば他の部署に移動可能といわれたので受けました。単純に数学力が足りずですね
もう一つの方は、専門家としてではなくて、ほかの新卒とかとルートは別でしたけれども、新卒のほかの学生と全く同じ見方をして、単純に潜在能力とか将来性というのを見て面接もやってくれていたと思う。先ほども言ったのですけれども、やはりまだまだだなと思うし、もっとほかの可能性もあるだろうし、いろいろなことをチャレンジしてみたいと考えています。
司会:神成そういう意味では、面談において、どういう趣旨でどういう希望を持って入ってきたかということを、本プログラムのことを知っていた人事の方が通訳してくれたようなことがあるからよかったのだと思います。そうでなかったら、基本的には決められた窓口から、理系ねとかという形で入っていくわけだよね。そうすると、かなり難しいかな。

学生B難しいですね。実際、ほかの文系企業を一般で受けましたが、二次で落ちました。博士学生も対象にしているので、その面接では、専門に関する質問ばかりされるのと、リーディングの説明に終始してしました。専門性は見てくれるけれども、そこはもう本当に27歳と22歳との間の5年の不利を背負っている気がしました。
そういった意味で、本当にメンターの人が5年間一緒にやってきているので、ある程度どういう人間なのかというのをわかってくれていると思うので、そこは本当によかったかなと思います。

学生A私の場合もドクターは採っていない部署でした。今まで22歳学部卒を採用して、育てるような形で運用してきた会社が、突然博士を取るのはハードルが高いでしょう。研究職だったら、論文を何本出しているかで研究能力の評価はできます。しかし、ビジネス分野では、能力の評価は難しい。例えばコミュニケーションをとってちゃんと何か仕事ができるかというところがわからない。そこの判断基準がない以上は、リスク管理としては採らないという線が高くなるのではないか。
ただ、私が正直思っているのは、それこそ社会の問題の複雑性とかに絡む話です。今までのルーチンワークの仕事で解決できない問題とか、そのままだったら完全にデグッてしまうという問題が、企業の課題として顕在化する可能性がある中で、いかにダイバーシティマネジメントをしていくかということに、各企業が取り組んでいる。特に昨今取り組んでいる内容なので、その一環として、こういった博士人材を入れるというのは1つありなのではないかなと思いますし、そういった立場にいたほうが、私たちも扱い方を理解させやすいのかなという気はします。
司会:神成日本を代表する企業の人事関係の幹部の方は、将来のこと、会社全体のことを見ているので、新しい価値をつくっていくような新しい人材が欲しいということはよくわかっているようです。その考えが人事担当者まで降りてきて、だんだん理解が出てきた。でも、君らを採用する現場は、即戦力でできるやつが欲しいという。そのギャップの中で、新しい人材の採用は、冒険になる。できれば少し余裕を持って、君らみたいな人材を採用してくれるような、懐の深い部署があるとよいです。そこをこれから開拓していかなければいけない重要なところだと思います。C君の場合はどうですか。君も努力というか苦労はしましたか。

学生Cそうですね。基本的に私が内定した企業は、いわゆる理系企業ではありますが、開発とか研究は別のところでやっていますので、日本法人は、ほとんどがカスタマーサポートとかそういうマーケティングとかという内容になり、実質文系みたいな職場になるかもしれません。
ただ、外資というのとIT系ということが背景にあると思うのですが、非常に考え方がフレキシブルです。博士だ、修士だといった違いは、気にしていないようです。そもそもその会社は、9割が中途採用と言われていて、新入社員が少ないのです。特にその会社の最終面接で感じたことがあります。その面接が始まったときにある役員の人が、君は卒業後、5年間何していたのと質問したので、えーって思いました。普通にえーって言ってしまったのですが、修士、博士、新卒、中途を全く気にせず、単に年齢を参考にして、ありのままの本人を面接で評価して採用いただけたのは、うれしい部分です。
既に内定者の人たちと会う機会がありましたが、学部と修士がメインです。文理を考えたら基本的には文がメインの人が多いです。今のところ、ドクターの内定者に会っていないです。ただ、一方で、そういうある意味で文系に近いところに行くというところは、自分の持っている理系の部分というものをいい感じにアドバンテージとして使っていくことができると思います。仕事にもそうですし、会社内のいろいろな人々とのブリッジする役割が考えられます。特に本企業は、本来は理系なのに日本法人は文系となってしまっているので、そういう意味で会社のブリッジにもなっていくことができればと思います。採用過程では、いい意味で適当に、フレキシブルに考えていただけたなと思っています。
司会:神成さて、省庁などは、むしろ何年かいてOECDに出向するなど、国際機関に行くようなパスもあるではないですか。その辺はどういうように考えているのか。ずっと役所で偉くなるまで勤めるという感じなのですか。

学生DA君の話にもあったように、タイミングや縁が大きいと思います。まだ仕事が始まっていないので、どういう仕事を進めていくかというイメージがまだ掴めていません。ただ、現時点では、自分のやりたいことが実現できる場所としてこの役所を選んでいるので、しっかりと働いていきたいなと思っています。
司会:神成省庁というのは例えば理系で入るとどんなものがキャリアパスとしてあるのですか。

オブザーバー:
羽鳥賢一特任教授

オブザーバー経済系の省庁の場合ですが、昔は文系、理系分かれてそれぞれキャリアパスを歩んでいくようなスタイルだったのですけれども、あるときから、総合職として、一緒に同じような見方で異動させるようになりました。短ければ1年以内で、長くても2年程度で、なるべく多く回る。仮に1年で異動したとしても、30年間に30カ所しか異動できない。他の省庁を含め、役所の外にも出ていきます。外務省経由で大使館に行くこともあります。ただ、ホームポジションは、自分が採用された役所です。企業から見るとそんなに頻繁に変わって大丈夫なのか?と疑われるほど、異動します。こうして多数の経験をさせる中で、成長させます。
司会:神成どの辺で出世するなど、差別化が出てくるのですか。

オブザーバー異動した先で仕事のでき具合を評価されます。良い仕事をすれば、次の異動の際に、より重要なポストに着任することが多く、そこでまた評価されます。その繰り返しの中で有能な人は、だんだん偉くなっていくかと思います。
司会:神成例えば2年ぐらいやっていて、その中でいい仕事をしたら評価されるのですか。

オブザーバーはい。毎年、時期が来ると、本人をヒアリングして評価するというルールがあります。今は、どうなっているかわかりませんが、以前、S、A、B、C、Dで評価していました
そういった意味では、やはり実績を評価して、ある意味でちゃんとやっている人間はどんどんよいポストにつける。それは組織のためでもありますね。ただ、現実は、旧態依然たるところがあって、文系が偉くなる省庁が多いと思います。
司会:神成D君はステップアップとしては考えていないのか。

学生Dそうですね。私の行く役所は、技術でずっといっても、よい仕事をすれば、それなりにいいところまで上がれると聞いています。入ったからには初めの10年ぐらいはそういうところを目指したいとは思いますが、その後どうなるかといえば、わからないです。関連団体に行く人もいるでしょう。けれども、やるからには技術系の上のほうまで行きたいなと思いますけれど、まだわからない。