修了生座談会 第1章

SUPER DOCTORを目指した9人の学生たち
-リーディングプログラム5年の軌跡-

2016年8月26日(金)

1. リーディングの5年間で膨らんだもの ―志―

司会:神成1期生の皆さん、参加ありがとうございます。リーディングプログラム5年間の振り返りと、皆さんの成長の証を何らかの形で文書にまとめたいという思いで、この座談会を企画しました。最初に進め方について言います。やや奇抜ですが、まずは結論じみたところから聞きたいと思います。普通の学生さんだったら、基本的には自分の専門の研究を軸にして5年間過ごすので、余りほかの分野のことを学ぶ機会は無いでしょう。就職を決めてから、さあこれからということで社会人として或いは仕事に関連した社会の仕組みについて、学び始めることになるかと思います。一方、リーディングプログラムでは、そういうことがないように修士・博士の5年間、メンターの方とのプロジェクトベースの活動、インターンシップやフィールドワークなど、多様なメニューをこなしながら、皆さんにいろいろなことに気づいて貰いました。また、キャリアパス講演等で、いろいろな方と話をするような機会を設けてきました。

神成文彦教授

それから、社会の現実の問題点や、そのボトルネックになっている所を気づいてもらおうということで、いろんなメニューをプログラムに詰め込んできました。その結果として、皆さんは現在、日本や世界の世の中において、今何が社会の問題で、何が大変そうだと思っているでしょうか。どの辺に皆さんは興味というか、問題意識を持っているでしょうか。そして、その問題に対して、これから社会に出て少しでもその解となる部分に携わっていきたいというような、いわゆる「志」を皆さん持っていると思います。英語のスキルも重要だし、専門性を深くするというのも大事です。幅広くほかの分野の学問を得るということも大事なのだけれども、それはやろうと思えば、後でも身につくことです。この23歳ぐらいから27歳ぐらいまでの若い年代の5年間において、吸収した、あるいは見出した問題意識や志は、この時期でないと培えないものだと考えます。さあ皆さん、5年間のこのプログラムを介して膨らませた志は何ですか。これから社会でどう頑張っていけそうですか。どこに食らいついていきますか。このような意識が一番大事なところかなと思うのです。ここのところをまず話してもらいたいなと思います。
トップバッターは、天下国家の政策を論じる中央省庁への就職を目指した永嶋君から、答えてください。

永嶋弘樹

永嶋まず、元々リーディングプログラムに入る時点では、ロボットの分野に携わる、その技術開発をするというところに興味を持っていて、その分野を研究してきました。元々の意識として、その技術に携わりたいという一心で、その技術のみを見ていたと思います。しかし、このプログラムの中で「社会の課題」というのを見ていくことによって、ただ技術があって、それにかかわり続けていたいという思いだけでは、社会を変えることはできないと考えるようになりました。そもそも技術を一番最初に見て、それを何とか社会に生かすという形ではなくて、そもそも社会を見ていないというところに、国家公務員試験のプロセスを通じて気づかされたのです。
日本が今どういう問題を抱えているか、世界の中で日本という国がどう位置づけられるかというところを考えた上で、その中で技術をどう生かせるかというところを考えて行きたい。技術だけではだめですし、ほかの国の存在というのを無視することはできない。自分だけがプレーヤーなのではなくて、さまざまなプレーヤーがいる中で自分がどう位置づけられるかということを意識しながら、問題というものを見つめるようになったと感じました。
司会:神成その一番大きな転換期になったような時期とか、経験はありますか。
永嶋あります。さまざまな経験は、研究室やプログラムを通じて得ました。それらが最終的に頭で整理されたのは、まさに今年の8月のことです。
司会:神成その前に、公務員試験を受けようというキャリアパスを決断しているわけですね。
永嶋そうです。そういう意味では、公務員を志したことが、きっかけといえるでしょう。毎週土曜日に聞いているキャリアパス講演の中で、企業での働き方、研究所での働き方、国家公務員の働き方を知ることができました。その中で中央省庁では、1年、2年で仕事を変えていきながら幅広い仕事を歩んでいく。さらに、特定の企業ではなくて国という立場で日本をよくしていくというところに魅力を感じて、省庁の採用説明会を聞きに行ったという経緯があります。その意味では、一番元のきっかけというのは、2年ほど前のキャリアパス講演でした。
司会:神成ありがとう。では、兪君。

兪 浩洋

私は、永嶋君と姉妹関係にある研究室にいて、ロボットの研究をしています。今後の夢は、ロボットをメインに、より生活にロボットを普及させていくことです。今は、ロボットは主に工場の中でしか活躍できていません。生活の中では、ある限定された場面でしか活躍していないのです。そこでジェネラルパーパスなロボットを今後普及させていって、例えば介護や医療に活かせるようにしたいという夢がありました。
リーディング大学院に入って自分が変わったところは何だろうなと考えると、2つ挙げられます。第1が、やはり自分一人の力では限界があって、いかに周りと一緒に協力し合って物事を達成していくかということが大きいと思います。もちろんリーダーシップだったりフォロワーシップだったりと場面々々によって違ってくるのですけれども、人と協力することの大事さが特に大きいと考えます。第2は、技術があるからその技術をどう生かすか考えるのではなく、世の中に問題点とか痛みがあるから、その痛みを今ある技術で解決していこうかというように、目的が先にあり、次にそれを達成できる手段を探すというように考えが変わりました。
司会:神成君の研究室には他にも博士課程の学生がいるかと思いますが、この人たちもロボットをやっているとしたら、君が当初考えていたようにロボットをいかに普及しようかという点で、マインドは共通していると思います。リーディングで得た気づき、即ち、皆で協力しようとか、社会の問題点にアダプトするような考え方をしようというところは、リーディング以外のロボットをやっている学生さんと比べて、ああ違うなという意識はありますか。
どうなのだろう。もちろん技術をメインにやっている研究者は、技術の知識は深いですし、そういった勉強になるところも多くあります。しかし、幅広い視点や、世の中のもっと問題点を見つけるというような問題意識はリーディングで身に付き、膨らんできたものであり、他の博士学生との違いを出せる点かなと思います。
司会:神成そこの点は、自分が勝っているなと感じるときはあるわけですね。
そうです。やはり自分に自信はつきました。従来型のドクターに比較し、多様な経験をさせてもらった結果、人とは違うのだという自信を持てたというのが1つの大きな成果かなと思います。
司会:神成ありがとう。では、長尾君。

長尾 建

長尾振り返って、自分がリーディングに入った理由からお話します。自分は元々情報技術に興味がありました。リーディングに入る前から博士課程に進学することは決めていました。それというのは分野、学問をきわめたいからと思っていたからです。
その一方で、それでは頭でっかちになってしまうという心配がありました。そのとき、ちょうどいいタイミングに、リーディングの募集がありまして、応募させてもらったのが5年前のことです。
実際に入ってみると、想像以上に学ぶ内容も広いですし、参加メンバー、1期生の仲間たちですが、皆本当に、自分の視点や志を持っているように感じられました。そこで、すごい影響を受けたことを思い出します。そういう意味で広い視野を持っていろいろなところから物事を見つける大事さというのを学ぶことができたと思います。
それというのは、もともと興味があった情報技術に関してもそうです。自分は特にコンピューターグラフィックス(CG)系なのですけれども、情報技術を究めておけば誰かがうまく使ってくれるだろうと考えていたのです。けれども、このようにいろいろ広い視点から見ていくと、やはりそれだけではだめだと思うようになりました。技術を究めるだけではなくて、ちゃんと例えばそれが社会のどういう問題に役に立つのか、それをどうやって発展させていくのかとか、そういうようなところこそ非常に重要だということを学ぶことができたのです。そういう意味では、やはり広い視点から1つのものを見る大事さというのを自分の中で発見できたという成長がありました。それも実は就活に若干関係していました。自分は元々の興味がIT系なので、IT系企業には変わりはないのですが、そのIT系の企業の中でも開発ではなくて技術とかマーケティングの方に進んだのです。それというのは、1つの開発とかそういうもの一本だけではだめだなという機会があったからこそ、選べた道なのかもしれないと思っています。そういう意味ではすごい成長もできました。一方、情報技術が焦点というのは変わらないので、情報技術の問題に関しても今後仕事を通して、関わってていくことができたらなと考えています。
司会:神成では、加藤君。

加藤拓巳

加藤私の場合は、恐らくこのプログラムに入っていなければ博士には進んでいなかったのではないのかなと思っています。このプログラムに入ったときに一番思っていたのは、自分は理工学部ですけれども、技術というよりは社会の問題とかそういうところを解決したい、そういうものを課題として取り組みたいと思ってリーディングに入りました。しかし、ここに入って一番初めに気づいたのは、何事をするにも個人の能力がまず高くないとお話にならないと感じたことです。なので、そういう意味では、このプログラムを通して留学に行ったり、もしくは博士課程を通して論理的思考力などを鍛えられてきて、個人として能力は上がってきたと思います。一方、最終的に進路を考えたときに、やはり個人の力で何かをする、もしくは技術的なところで何か貢献をするというよりは、どちらかといえばそういう社会に対してとか、国に対して何か貢献ができる道がいいなと思って私はそのような進路をとりました。
なので、私の今の志は、どちらかといえば個人の力で何とかする、何かを起こすというよりは、高い個人の能力を用いつつも、それをベースとして何か社会に対して、社会問題の解決であるとか、そういうところでやっていきたいなと考えています。
司会:神成私としては、先ほど永嶋君と2人が国家公務員になって省庁に入るというのは、当初のころは予期していないし、期待もしていなかったキャリアパスでした。社会の問題点をつぶさに見て、そういう国家的なところからアプローチして問題を解決できるところに将来の進路を選んでくれたというのは、実はすごくうれしいと思っています。加藤君は、省庁の進路を考え始めたのはいつごろですか。同じ省庁でも、特許庁とか経産省だったらわかりやすいのだけれども、文科省を選んだというのは、視点がユニークだし、頼もしい限りです。それはどの辺でそういう転換期というか、決意をしましたか。

加藤そうですね。私としても、技術の産業応用などに興味がないわけではないです。でも、どちらかというと自分が結構基礎系のことをやって研究しているということもあって、基礎技術とかそういう科学技術関係、そういうところに行きたいなというように始めめに思いました。もちろん説明会にもたくさん行きました。そこでは、国の大型プロジェクトを結構文科省が担当していますが、意外というか当たり前というか、そこでは余り博士人材はいなくて、せいぜい修士号どまりでした。そういう人材が科学技術の大型のプロジェクトを動かしているのです。それを見て、ここで貢献できる可能性はあるのではないのかなと思い、アプローチした結果、先方もそれなりの評価をしてくださいました。この分野には博士採用の前例がないので、どうなるかわからなかったのですが、そこはこのプログラムの経験が生きたのではないか、と思っています。評価してもらえて、本当によかったです。
司会:神成では、吉岐君。

吉岐 航

吉岐私はリーディングに入って、社会の問題がいかに複雑かということがわかりました。今、自分が取組んでいる研究を通じて感じる課題というのは、1人のプロフェッショナルがいれば解決できる課題が多いと思います。レーザーに関係する実験、研究をやっておりますけれども、それに関しては例えば光の知識であるとか、それを制御する電気の知識などがあれば、ある程度解決可能な課題が多いと考えます。一方、社会の問題に目を向けますと、例えばリーディングでは、年金や医療費の問題等がよく話題に上がり、皆で議論する機会が多いです。リーディングに入る前はそういった問題というのは基本的に政策に詳しい人が頑張れば解ける問題だと考えていました。しかし、よくよく考えてみると、政策に詳しいだけではだめで、ちゃんと将来の年金の見積もりを立てる経済学的な知識であるとか、あとは労働をどうするかということにも関係してきます。多分そういったものを解くためには、複数の分野の専門家が必要で、そういったことというのはなかなか自分の研究において、1つの研究に相対しているだけでは得られないことと感じます。そういったリーディングの活動を通じて、こうした社会の問題の複雑性に関して気づけたことが、非常に自分のためになったと思います。
そのリーディングプログラムにおきまして、副専攻修士号の取得であるとか、異なる分野の人々とコミュニケーションをとることによって、視野が広がったというか、複雑な問題に対処できる能力がすこしづづ、備わってきたかなと思います。しかし、まだまだ学生で、スキルを見せるところまでは到達できなくて、そういう問題意識を持って今後、より成長していきたいなと考えております。
司会:神成段君。

段 牧

段 牧私が今、個人的にですけれども、自分の専門に近いところで一番問題だなと思っていることがあります。私は、ずっと地震工学を専門にやってきていますが、そういった自然災害を始めとして、さまざまなリスクというのが世界中で起こっていると考えます。リーディングに入る前は、どうやったらリスクに対する被害をなくせるかとか、被害を最小化できる建造物自体のことをすごく研究していました。今、一番思うのは、どう頑張っても起こるものは起こるということです。
それを前提として、そこからどうやって早く立ち直るか、どうすれば、被害を減らせるかが重要なのですけれども、人々が普段の生活に早く戻って、より先に成長していけるのかというのが、今はすごく重要だなと感じています。そのように考える大きなきっかけとして、副専攻の商学研究科に入ったことを挙げることができます。そこで企業の研究をして、やはり災害を初めとして、そういうリスクから社会が立ち直るのに企業が持つ役割というのは非常に大きいなと感じました。その後はずっと企業を対象として災害に関する研究をしています。もちろん公共、自治体とか国の役割も大きいと思うのですけれども、企業としてそういった社会が何か困難に遭遇したときに、どうやってそれを早く回復して次のステップに進むかということを、企業の立場から考えるという思考法は、リーディング大学院に入って感じた新しい視点だと思います。
司会:神成段君の就職先は総合商社なので、技術そのものをやることは少ないと思います。そうすると、仕事の内容的には、自分は一からやるという立場ですよね。かなり下地がないところだと思うのだけれども、そこに入ってあの大きな会社の中で、自分で一部門を切り開いていくことは、かなりのマインドが必要だと思います。そこまでやってみようという自信と決意みたいなものは、いつ頃、どの辺であったのですか。
自信というのは、やはり博士課程に進んでいる人は、私はみんなそうだと思うのですけれども、1つのことを突き詰めるという能力はあると思っていて、自分自身もこの5年間である程度のことはできているのかなという自信もあるので、1つの物事を突き詰めるという1点においては、どんな会社に入ってもやっていける自信はありました。
あとは、リーディング大学院に入っていない学生と違うなと感じたのは、やはり5年目、後期博士課程を終えたところで、普通の学生は結構自分の専門性にすごく自信を持って、それを武器に勝負したいと考える学生が多いのではないかなと勝手なイメージを持っています。もちろん私も専門性は持っていますが、それ以上にもっと別の可能性もあるなということを感じています。だから、自信もあります。ぜひとも大きな会社で、自分自身をチャレンジしてみたいと思っており、そういう意欲を持って今後やっていきたいなと思っています。
司会:神成では、安藤君。

安藤大佑

安藤自分の中で考えているうちに質問の意図はふわっとしてきてしまったのですけれども、設問の要点は結局、リーディングを通して、社会に対しどういうような問題意識を持つようになったかで良いでしょうか。
司会:神成どのくらい志を膨らますことができたかです。

安藤膨らますことができたか、しかもそれが23歳から始めることにどれだけ意義があったかという話ですね。そうですね。どこから話しましょうか。私は実は学部生のころ、3~4年生のころは、私は自分自身が神のような存在だと思っていました。神という言葉はよくないかもしれない。それはどういうことかというと。
司会:神成自分にすごい自信があったということかな。

安藤自分自身に自信があふれていましたし、自分は勉強ももちろんできる。4年生に入ったときも1人でずっと研究室にこもって研究していた。研究もできると、何でもできると、本当にそういうように思っておりました。
ただ、一方で、自分自身の性格が全くわかっていなかったかというとそうでもなくて、自分自身という人間が社会に出たときに、これは明らかに出るくいは打たれるということも正直わかっていて、社会に出ることに対してある意味怖さというところを感じていました。そんな学部時代に、私は2つのことを絶対に実行してやろうと考えていました。
1つは、博士に行くことです。博士に行って学問をきわめると言ったら格好いいのですけれども、多分当時の私としては、博士は何かよくわからないけれども、人とは違う。何かスペシャリストという言葉が格好いいと思って、博士に進む。2つ目は、私みたいな人間は絶対、社会で役に立つはずだから就活はしない。来てほしいと言ったところに行ってやろう。その2点を学部3年生のときからずっと思っていました。
そういった自分だったのですけれども、同じようなノリで、大学院に入ったときにリーディングの大学院のプログラムと出会いました。スーパードクターを育てる、次世代の博士人材を育てるというキャッチフレーズに引き込まれました。これはすばらしい、私の思っている理想像に近づけるのではないかと非常に感じました。そこで、このプログラムに応募しまして、結果として非常によかったと思っています。それはなぜかと言いますと、一言で言うと無知の知なわけですよ。つまり、自分がいかに物を知らずに、いかに視野が狭く、いかに物事をストレートフォワードにしか捉えていなかったか、一面的にしか捉えていなかったかということが良くわかった。それというのは、このプログラムの一番のポイントですが、いろいろな分野の人間が集まっているということ。そして、産業界の多様な業種のメンターが来ているということ。さらには、いろいろな経験をさせていただける。例えば、入ったばかりの年に、海外インターンシップで行ったサンフランシスコのベンチャー企業で、全く違った環境において自分という人材の価値というものを再定義する機会を与えられた。
そういったところを通じて、いろいろなものを多面的に見ることの重要性というのを非常に感じました。思い起こせば、私は学部3年生のときは社会問題、例えば年金問題だとか各種政治的な問題から福祉の問題に対して、強く意識を持っていて、どうしてこんな問題に世の中はこんなに時間をかけているのだと思いました。こうやったら簡単にできるのではないかと思っていました。
しかしながら、例えば貧困をなくすという1つの事象を取り上げても、いろいろなアプローチの方法がある。使えるリソースは限られている。それをどのように使っていくかというのがいろいろな人がいろいろ思惑を考えて実行していくからこそ難しい。これは先ほど吉岐君が言っていた複雑性というところに非常に話としては近いかなと思うのですけれども、社会問題というものが複数の人間のいろいろな感情から構成されていて、いろいろな条件があって、それでもって非常に複雑である。だからこそ、多面的に物事を捉えて、どういったステークホルダーがいて、どういったソリューションが考えられていて、どういうようにそれを解決しなければいけないかというのを深く考えるということができたという点で、私は非常によかったと思っています。そういうトレーニングの機会を得ずに社会に出たとしたら、もしかしたらうまくやっていたかもしれないのですけれども、自分自身の性格、考え方の硬さや視野の狭さなどと世間とのギャップが、どこかしらで埋められなくなる瞬間が来たであろうと感じています。そういった意味で、非常にこのプログラム、特に23歳という若い年代から5年間このプログラムで活動できたことは、私の人生の中でも非常に価値があったというように感じますし、大変ありがたく思っています。
司会:神成ありがとう。では、文系1人だけれども、坂本君。

坂本正樹

坂本順番が後ろのほうなので、少しは気の利いたことを言おうと思って考えたのですけれども、あいにく思い浮かびません。プログラムに入って、自分の中で変わったことを一言で言うなら、寛容になったということです。
すごく変な言葉なのですけれども、寛容というのもいろいろあると思うのですけれども、今までの人が言ってきたように、このリーディングはある意味、獅子が谷底に子供を突き落とすかのように、すごい知らないところに学生たちをぼんと放り込んで、そこから自分で何かを学び取ってこいというものだったと思います。しかもそのすごいことを、何回もやらせる。インターンシップでサンフランシスコの法律事務所に1ヶ月行かせてもらったときもそうですし、副専攻で、自分の専門の枠を大きく理工学研究科に進んだときもそうでした。そもそもこのリーディングという場所自体が、水飲み場効果と言いますが、知らない人たちが本当にたくさんいて、そこに放り込まれてという状況でいろいろやってきました。そういう意味で、いろいろな分野の人たちがたくさんいて、その中で違う考えもあって、違う方法論の人もいるし、全然違う思考、違うバックグラウンドを持った人たちとコミュニケーションをとらないといけない。
どうしても専門性を突き詰めていくと尖っていって、やはり1つの方法論というのをある意味信奉するというか、これでやらないといけない、こういう考えでずっとやってきたのだとなりがちだと思うのです。それは専門性を突き詰めていけば仕方ないことだと思う。同時に重要なことだと思いますが、同時に違う分野の人とコミュニケーションをとるという過程で、専門性を突き詰めたことがかえって、障害になってしまうということもある。
そういう意味でリーディングというのは、その違う尖りを持った人たちに対して、如何に寛容になるかを訓練する場だったかもしれません。寛容は余りいい言葉ではないかもしれないのですけれども、いろいろ多面的な視野を持てば、ほかの人の考えがどういうバックグラウンドに基づいているのかということを知りたいと思うようになります。それがどういう考えに根差しているのかということも理解したくなります。そういう努力をしていこうという考えも含め、この5年間ですごく身につきました。リーディングの人たちが、すぐれたという言葉で言うのは余り適切ではないように思いますが、むしろ異質な人の集団であるということが大事だと考えます。異質であるということによって、今の社会に欠けているものを埋めるピースになれればいい。
それは同時に、今、いろいろなところの専門性であるとか分野というものをつないでいくような役割というのを果たすような人材にもなり得るのではないかなと考えています。やはりそれは今、日本社会を見ても、グローバル化というものでいろいろな分野がつながっていく、国がつながっていくという中でも、物すごく世界でも社会、日本でも必要とされている能力であり、人材なのだろうなというように考えます。そういう意味ではリーディングのプログラムの目標としているものは、すごく時代に合ったものなのではないでしょうか。それを満たせるかどうかというのは私たちの努力次第だと思うのですけれども、少しでもそこに近づけていければなと思っているところです。
司会:神成私としても一期生に文系の学生さんがちゃんと最後まで残ってくれているというのはすごい大きなファクターです。もしも理系の学生さんだけだったら、外から見ると、理系の学生さんがちょっと分野を広げて、教養的なものをちょっと加えた。でもやっぱり、就職先は割と専門性の近いところに、技術系のところに行くのねという風に見えがちだったかも知れません。文系から副専攻で理系の修士号を取り、主専攻の文系に戻って博士課程を修めて、自信を持って出ていってくれるというのは非常にすばらしい成果だと思います。一方、三田に行くと口の立つような頭のいい博士の学生さんはそれなりにいっぱいいますね。そういう中で、互いに話し合ったりする機会もあるでしょう。そういうところの話し合いの中と、リーディングで全然違うバックグラウンドの理系の学生さんと話すというのは、視点とか考え方とか違いますか。
坂本多分、話のレベルの段階、フェーズというか階層が違うと思います。要するに三田で専門の人たちと話すときは、一段階深いところの中で話します。それはある意味、ハイコンテクストであって、もう共通理解がある中で話していく。だから、どんどん話も深掘りになっていくし、専門用語も飛び交うしということになると思うのです。ただ、こういう分野、リーディングのようないろいろな分野の人がいる中というのは、まずその共通理解というのが前提ではないということを最初に気づかないといけないし、同時に、当然当たり前だよねみたいな言葉というのは全然通用しない。
それはむしろ反省として、そんな当たり前だよねと言って、上から押しつけるような考えは絶対にできない。それはむしろ伝える側がそういうことをちゃんと前提に話していかないといけない。専門用語の説明であるとか、そういうことをちゃんとしていかないと、すごいおもしろい考えとか発想を持っていても、伝える相手が少なければ、それはもったいないことだし、意味もなくなってしまうのだと思うのです。そういう意味で、先ほど言ったように話のスケール、階層が大分違ってくると感じています。
司会:神成坂本君はやはり文系だから、就職的にも産業界に出るというパスはそれほど敷かれているわけではないというか、一般的ではないです。将来のキャリアパスとしてどこでどんな活動をして、今後、社会に対してどういうことで自分は貢献できるのか、というところで何か膨らんだ要素みたいなのはありますか。
坂本そうですね。今のところ、産業界かどうかというのもまだ固まっていません。先日、ハーバード大学の先生がリーディングに来て面談したときに、1つサジェスチョンを頂きました。自分の専門を大きく超えた異なる研究科の研究の状況や、その運営の状況など、学んできたことが役に立つというのです。それは例えば将来的に大学に残ったりしたときでも、そういう違いを知っているというのは、大学の運営システムを見直すときに、他の人ができない寄与ができるのではないかといわれました。その場所は、大学である必要はないかもしれない。先ほど言ったようにブリッジしていくことの力というのは、いろいろなところで生かせることだと思うのです。そして、やはり今の産業界などは、ほとんど大半が文系の人たちが上のほうを占めている。私のメインのバックグラウンドは文系(法学)なので、経営の部分に多い文系の人たちと深層での話もできるし、理系の人たちにも、ある意味懐に入り込んでコミュニケーションをとりやすい、そういう立場にいるのではないかなと思っています。
司会:神成ありがとうございます。では、山本さん。

山本優理

山本質問にちゃんと答えられるかどうか心配ですが、私がリーディングに入る前に考えていたのは、Ph.D.には絶対に進学しないで、学部で卒業して、できることなら自分でベンチャー企業を立ち上げたいと思っていました。そのベンチャー企業とか自分の視野を外に広げるために、商学部とか経済学部に入り直してみようかなというように思っていたところに、このプログラムが始まりましので、迷わず応募しました。そのときは、Ph.D.の価値は余りわかりませんでした。
今、聞かれても、すごくちゃんとした答えが自分の中で出せるわけではないですが、この5年間を通して、アメリカと日本の間など、いわゆる国内外においてPh.D.の価値がとても違うということについて、すごく実感しました。このPh.D.をどう生かせるのかというところは、卒業するまで自分の中で考え抜かなければいけないと思っています。一方、この5年間、リーディング大学院に通って、確固たるというか、きちんと自分の中で得られたものとしては、異分野の人とコミュニケーションをとる大切さだと思います。学部生のときに自分が持っていた知識や技術をサービスに乗せて、ユーザーの方々にサービス提供することは、想像以上に厳しく、いかに自分の考えが甘かったかということを思い知りました。例えば、ほかの分野の人から受けた質問は本当に核心を突いていて、自分では全然思いもつかなかったことであったり、自分が見落としているようなものを発見できることもありました。こうしたことを通して、自分の視野を外に広げ、自分と社会をコネクションしてくれると言ったら受け身みたいでおかしいですけれども、社会とのつながりを得るための場所として、リーディング大学院から大変多くのことを吸収できました。特にメンターの先生方と一緒に話をした際に、一研究者の卵という位置づけであるマスターや博士の学生としての理解力や考え方とは全く違う視野を与えてもらい、この5年間ですごく視野を広げることができました。
この点は、自分のラボの同級生や下級生、そして先生と話す際にもすごく痛感します。例えば外部の先生がリーディングに講演下さったときなど、学生からの質問は、この技術はどうなのですか、この先はどう考えていますかという類が多いのです。一方、私の関心ごとは、勿論技術的なことも興味はありますが、それ以上に、このサービスが運用されたときに社会に与えるインパクトとか、どれだけ社会に貢献できるのか、その貢献している中には、人種差別みたいな何か問題は起こらないのか、そういったことに向かうようになりました。特にライフサイエンスに携わっている人間としては、研究倫理として人を傷つけてはいけないということが目的の1つにあるので、そういうところによりフォーカスを当てて議論できるようになったなというように思っています。
司会:神成最初、ベンチャーを起こそうという考えがあったとのこと、それだけでも十分な志だと思います。それがさらに膨らんで、今はどのように社会に貢献したいと考えていますか。夢でも構いません。

山本ベンチャー企業を立ち上げるときは、多分私が何かシードを持っていたら、そのシードが中心になってそこから多岐に展開したと思います。その後、考えが変わって、一度、企業に就職しようと考えました。それは食品や化粧品、製薬系のところに就職するのではなくて、何かサービス、ソリューションを提供するようなところに就職したいと思いました。何を考えたかというと、自分の周りの分野の人たちと起業をしても、ライフサイエンスの分野でしかとどまれないでしょう。そうではなくて、ほかの分野の人、例えばここに理工の人も法学の人もいますけれども、そういう人たちを巻き込んだような、いろいろな分野のことをやっている大企業に入って、サービスを提供する側に回れば、いろいろな分野の人と協力して、インパクトが大きいサービスやプロダクトを提供できるのではいかと考えました。それがまた社会のトレンドや、次世代のヘルスケア産業を考えるトリガーになるとすごくうれしいなと思うようになりました。

司会:神成ありがとうございました。
一通り話して貰いました。私が印象として受けるのは、5年間やってきたということに裏打ちされた自信が非常にあると感じます。同じ博士の3年生で、理工学研究科の助教さんのポジションに既に付いている学生さんはいますが、こうやって座談会をしても、多分自分の専門性のことはしゃべれるけれども、それ以外のところを膨らませて、それと社会とリンクしてというような話は絶対盛り上がっていかないでしょう。こういった議論ができるのはもう全然違うなという印象です。それも、どこかで読んできたことを格好つけて言っているのではなくて、自分の苦労した体験に基づいて自信を持ってしゃべってくれているなというのが本当によくわかりました。志という形で格好よく言葉にはしにくいかもしれませんけれども、そういう点でリーディングではない学生さんと違って成長しているということは、よくわかりました。
志という点において、何かつけ加えるようなところはありますか。

安藤一ついいですか。先ほど、皆自信があるという話で、私もそのように話しました。その一方で、何度も海外に行き、いろいろな人に出会ってきて、やはり自分はまだまだ大したことがない人間だなと感じます。確かに我々は2つ修士をとってダブルメジャーなどと言いますが、海外だったらそんなに特別のことではないし、場合によると3つ持っているなどという人もいるし、それ以上にいろいろ物事を考えているように感じられます。もちろん、自信はありますけれども、やはりまだまだだなと感じます。多分皆そう思っていると思いますけれども、今後もっともっと頑張って、この5年間で身に付けたものを生かして、さらに成長していきたいなと思います。
司会:神成そうですね。その点も重要で、グローバルに見て自分の立ち位置、自分の置かれている状況、能力というものを客観的に見ることができているというのも、非常に重要なことです。日本の教育は、高度博士人材育成と言いながら、修士・博士課程の教育内容がリッチではないというところに問題があります。社会に出た後に戻ってきて、学び直すとかという幅広い経験や考え方を持っている人たちと、もまれながら教育を受けるようなシステムになっていないので、それは多分日本の教育のまだ成熟していないところなので、欧米と比べると劣るように見えるようなところがあるのではないかと思います。
一方、日本の企業はグローバルに互角に闘っています。すると、どこでそのツケを挽回しているのかというと、やはりオンザジョブというところで、非常につらい思いをし、修羅場をくぐっていく中で成長させるという企業内教育をしている。それで、あるところまで行くと、グローバルにも闘える企業戦士ができ上がるシステムになっているのではないかと思います。そこが企業の自信になっており、大学でいろいろなことをやってもらうよりは早く22歳で出てきてもらったほうが、より企業として使える人材が育ちますよと聞くことがあります。そうなると、大学の教育課程とうまいマッチングをとることが難しくなります。そこで本当に、大学側がここまでやるというプログラムがいいのか、あるいはオンザジョブトレーニング的な日本のやり方がいいのかというのは、これからまさに社会に出て行く君らにかかっていると言えます。君らの活躍により、22歳ぐらいのところから志を高めて、社会の問題点とか、自分の能力とか、何をしなくてはいけないかという問題意識を持って育成されたリーディング5年間というのは、かけがえがないものだというように企業が気づけば、このプログラムは伸びていくだろうと思います。そこがやはりオンザジョブトレーニングのほうがいいねとなってしまったら、余りこれからも続いていかないプログラムになってしまうのではないかなと思います。そういう意味で皆さんに会社に入ってから、あるいは省庁に入ってどこまで活躍できるかというのは、非常に重要なポイントだと思っています。